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一時的なバブルなのか新秩序への移行なのか
一応、経済活動(の一部)を観察することを生業としている人間として、レベルソ好きさんのトキノタワゴトブログの「スイス時計産業バブルを考える」というエントリ広田さんのwebChronosの「雑感(ややシリアスに)」というエントリを受けて思うところを書いてみます。
これはとてもラフなアイディアに過ぎず試論とも呼べないようなもので、もっとまともに書けるようになればちゃんと書きたいとは思いますが、それでも今書くのは個人のブログだから好き勝手に書くぞ、ということで:)
今、新興国の経済成長とそれに伴う資源インフレが永続的であり、したがって世界的な社会構造の変化を受け入れざるを得ない、という話が普通に受け入れられつつあるように思います。経済そのものの話は措きますが、早い話が、世界経済における新興国のプレゼンスの上昇(G7の地位の相対的低下)、経済価値に占める一次産業の比率の上昇(加工産業・サービス産業の比率の相対的低下)ってことで、これは、乱暴な議論をすれば、オイルショックやその他諸々のことがあったとはいえ、それらが一時的であったことを思えば、過去20〜30年のスパンでみると最大規模の構造変化となりうる、という話です。
戦後60年間でとらえれば、極では冷戦・ブレトンウッズ体制からG7プラスというのは分散化とは呼べますが、顔ぶれは変わらず、また、その中での産業構造は一次から二次、三次へという展開であることに変わりはなかったと。ところがここへきて大きく変わりつつある、という見方ですね。
その中での時計産業の位置付けとは、と見ると、案外危機的とも呼べないのでは、と思います。

70年代の時計産業の衰退と90年代の機械式時計の復興については以前、某掲示板で歴史的社会的な意味での機械式の復興みたいな話もちょこちょこ書いたので、興味ある方はそちらも読んでいただきたいと思いつつ。

1970年代のスイスを筆頭とする時計産業の崩壊ってのは、もちろん高級化で消費者不在という問題も孕みつつ、ですが、世界経済の不況と技術進歩(クォーツ)の影響というのはやはり無視できないように思います。その点では、現在のスイス時計産業の高級化路線はもちろんリスクの高い選択肢ではあるという議論には同意するものの、内部要因的にも外部要因的にも1970年代になぞらえるような状況であるかどうかは注意深い議論が必要であろうかと思っています。

今回は、もちろん世界的な経済構造の変化が時計産業に直接的な変化を促しているわけではないので(戦争に用いられていた時代にはそういう傾向が強かったわけですけど)、外部要因の変化から内部要因の変化に至るにはマーケティングという側面が少なからず影響するでしょうし、それについての議論はここではカバーしていませんが、70年代との比較でいえば、

■世界的には持続的な経済拡大局面にある
■クォーツのような"技術上、対立するような"パラダイムシフトは起きていない
■その一方で、脱進機や素材や加工精度などで"技術上、対立しない"進化は見えてきている
■既に現在の機械式時計はクォーツ対機械式、あるいはファッションとしての機械式の復興という単純な図式は脱しており、次の定義付けを待っている
■世界経済的に構造変化を起こしており、奢侈品の需要の構造なり分布なりが変化してきている

というような捕らえ方が可能だと思います。このような前提に立つならば、今は消費者不在の高級化という話では必ずしもなく、機械式時計の新たな産業構造が生まれつつあり、そのinnovatorやearly adoptorに訴求している段階にあるという可能性について考えるのも無駄ではなかろうと思います。
であるならば、今の高級化は陥穽に落ちる話ではなく、innovatorやearly adoptorに受け入れられて、それが真に消費者に訴求するものなのであれば、chasmを渡った瞬間にmajorityに大きく普及することが十分に考えられる、と。
# chasmの議論については基本的にはハイテクに適用される議論ですが、消費者のマインドセットの変化にかかる時間、という需要の側面から捕らえれば結構普遍的に使える概念だとは思います。

では、そのearly adoptorへの訴求はどうなのか、chasmはすでに来ているのか、来ているとすれば渡りきるのはいつか、その時にmajorityにリーチするミドルレンジの時計とはいかなる時計か、少なくとも注意深く考え、観察するに値する問題ではないかと思う次第です。

上記の議論に沿うならば、おそらく、今のハイエンドでの流れがchasmを超えてミッドレンジに降りてくるのは、クォーツや従来の機械式では果たしえなかった直接的な経済価値かコノテーション(ステータスシンボル)をもたらす時ではないかとかって安直に考えちゃいますが、さらに安直に考えるならば、セラミック系の素材だの耐磁性だのの一連の努力によるメンテフリー化はわかりやすところでしょうし、こないだのセイコーの電子ペーパー時計に関する雑感もそのひとつかなと思わないではないですし、後は腕時計という形を止めちゃうとか、、、ってなんかほんとに安直な(笑
| 雑感・雑談 | 00:03 | comments(8) | trackbacks(1) |
コメント
さすがに慎重かつ丁寧な分析ですね…。オチは謎ですが(笑)僕も今後じっくり観察していきたいと思っています。ご示唆ありがとうございますっ!
| Nikator | 2007/06/12 12:06 AM |
Nikatorさん、超はやっっ(笑
日本人的な嗜好が受け入れられなくなってるだけ、という話を受けて思いついた話なんですけどね、これは。
| alpaka | 2007/06/12 12:12 AM |
さすが本職。極めて理路整然としております。5つの捉え方はまさにそのとおりとの思いです。私の予想は近未来かつ局部的ですが、alpakaさんの考察はもっと長く太い目で見たメインストリームですね。たしかに最後のオチは謎ですが。
| レベルソ好き | 2007/06/12 5:57 PM |
すごい分析ですねえ相変わらず・・・・・・・
より広い層にどう訴求するのか、ということをどうかんがえるのか、ってのがキーなんすかねえ。となると答えはいつぞやのおすし屋さんにあったりして(つうか正確にはあの時に登場した謎の時計たちw)
| スプー | 2007/06/14 10:01 PM |
>レベルソ好きさん
加工精度が著しく低いのはもとより論外、QCはできていて当たり前、という前提に立った話ですから、レベルソ好きさんが喝破する某メーカーはスタートラインにすら立ててないのかも、ですね。同じテーマですが見える地平がずいぶん違うので結論もずいぶんと違います(笑

>スプーさん
ということで続きはお寿司屋さんにしましょう。ヴェブレンとクリステンセンは宿題ですので読んでおいて下さい:P

| alpaka | 2007/06/15 1:07 AM |
もういっこ。レベルソ好きさんの議論の前提には世界経済の減速が入ってますけど、私の議論はそこは正反対なので、結論違っていて当たり前ですね(笑

| alpaka | 2007/06/15 1:13 AM |
クオーツショック以降、実用品としての地位を追われ、
一部ヲタ者の嗜好品=マイノリティ化していた機械
式時計が、再び経済ベースで脚光を浴びるためには
あまりにも急激に経済成長を遂げた新興国の成り金層
を利用しない手はないんでしょうな。

既に機械式時計と言うアイテムは、その種の購買層の
なかでは「第三者との経済的格差を示すアイコン化」
してるざましょ。

だからこそ「中身総とっ替えOVH!」なんてことは、
彼らの中ではじぇんじぇん大した問題ではないのでし
ょうし :)
いまや*大メーカーと言われるその手の企業ですら、
マス指向のあまりギヤ関係の熱処理までは気が回らず
「ガンギ」どころか主輪列のギヤが数年でごりごり削れ
ちゃうというまあ大変な事になりつつある現状。

曰く「部品が磨耗したから交換しますね」
曰く「メーカーから正規部品の供給がないから修理
   出来ないわこりゃ」
曰く「中身全部新品に換えといたから。良かったねぇ」

まあ意図的にばらまかれる「ファンタジー」に侵され
てるなとは感じつつも、自分の中での機械式時計って
のは

「やる気であれば手作業でもなんとか修理可能で」
「復元性の良い」
「マスプロなのに工芸品」

なんだよなあ と

バブルなんて終わっちまえとはあまり考えないけどさ、、

おまいらこっちに土足で入って来んなよとは思うにゃ:)
| TSS | 2007/07/10 11:57 PM |
まさにその「土足」な感じが一部のブランドのCEOから存分に漂ってくるわけですね(笑

でもだからといって「慇懃に」(ここでファンタジーとイリュージョンがより有効に用いられるわけですけど)入ってこられても困るっちゃ困るなあとも思います。
「慇懃に」はこっちの方から穿った見方をすれば「狡猾に」とも表現できるかも。

ここんとこの新製品の多くは技術としてはちょっと放っておくとすぐ再現できなくなるようなものばかりですよね。
ましてやそのメーカーの外に出ちゃうと修復不可能な感じが最初から漂ってるって感じですし。

| alpaka | 2007/07/19 1:14 AM |
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今まで何度も書いてきたようなことであるが、某店の社長のお話を聞いて、普段思ってい
| トキノタワゴトblog | 2007/06/12 6:11 PM |